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「measurement problem」 のためのノート

measurement problem 1.非干渉
measurement problem 2.干渉
measurement problem 3.収束

最初に浮かんだのは死亡確率という単語でした。
天気予報と同じように、毎朝のニュースで「今日の死亡確率は50%です」というような予報が流れる。死亡確率が50%の日に亡くなると半分死んで半分生きている状態になります。これが死亡確率90%の日だと90%死んでいて10%は生きている。どうしてそんなことがおこるようになったのかなんていう説明はなしに、それが当たり前の世界の日常をお話にしてみる。
そんなアイデアが浮かびました。もちろんそれですぐに書き始めるというわけでもなくネタとしてメモしてそれで終わりでした。
ふとしたことで、このアイデアを見直していたときに量子力学での思考実験のシュレーディンガーの猫と同じじゃないかと思ったわけです。そこで死ぬと量子力学的な重ね合わせが起こる世界ということにしてしまえばちょっとだけ説明できるかなと考えると同時に、じゃあこの生きてる状態と死んでいる状態が重ね合わさっている状況というのはどういうふうに描けばいいんだろうかと思ったわけです。そこで生きていると同時に死んでいるんだったらゾンビだなあと思いました。
シュレーディンガーの猫をゾンビとして描くというのも面白そうだなあと考えたのですが、エンターテインメントにしてしまうとめんどくさそうで、そもそも発端は「今日の死亡確率は50%です」というおかしな設定ですからそういう雰囲気の話にしたいのです。
しかし、設定だけ考えただけでは物語になりません。この状況を物語にするのにはどうしたものかと思案していたところで、この重ね合わせという状況を並行世界と結びつけてみたらどうだろうかと考えました。つまり死亡したときにまだ生きている自分のいる平行世界とつながってその世界の自分と重ね合わせが起こってしまうという設定です。そこで死亡してから蘇る世界と、つながって引き寄せられてしまう平行世界とを交互に描くことをしてみたらどうだろうと。引き寄せされるほうも重ね合わせが起こるわけですが、こちらは生きている状態から死んでいる状態が組み合わさってしまうことになるので、生きている実感が喪失してしまうということにします。二つの世界で同じ人物、しかし微妙に異なる、そんな主人公の様子を描きながら、少しずつ世界が見えてくるという話を考えたところで前提条件に大きな問題があるこちに気が付きました。
シュレーディンガーの猫が生きている状態と死んでいる状態の重ね合わせになるのは蓋を開けるまでのことで蓋を開けてしまえばどちらかに決定してしまいます。つまり観測されてしまえばそこで終わりです。シュレーディンガーの猫のゾンビの場合もゾンビであると観測された瞬間にどちらかに決定してしまわなければ矛盾してしまいます。
そこで世界まるごと箱のなかに入ってしまっているという設定ならばどうだろうかと考えました。ゾンビであるとわかってもそれは箱のなかにいる人なので観測されたわけではないと、ちょっとむりやりですけれども。
そして観測するということは観測された対象が観測されたと認識しなければ観測されたことにはならないとしてしまってもいいんじゃないかと考えました。
そこまで考えたところで物語に戻って、主人公は二人、片方は男性で片方は女性。お互いは恋人同士で彼女のほうが死んで蘇るあるいは生きている実感を喪失してしまうという設定にして、恋人同士のコミュニケーション不全、つまり男性の方が女性の気持ちを理解しているつもりになっていながらも女性の方からすれば全然理解してもらえていない。そういう状況の二人を描きつつ生きている状態と死んでいる状態が重ね合わさってしまうという現象と相似的に結びつけていけば短編ができるだろうと考えて少しづつ書いていったのですが、一万文字ちょっと書いても全然まとまる気配がしません。二万文字程度に収める予定だったのでもう少し書けば先が見えてくるかもしれませんが、ちょっとこれは無理そうだと感じました。
それ以外にもシュレーディンガーの猫の重ね合わせが起こる原因として、少子化対策のために秘密裏に開発された生殖能力を増大させるウィルスがハザードを起こして、宿主を生存させるために重ね合わせを起こしたとか、生きている実感が喪失してしまう人が多数発生したため精神科の医療崩壊といった設定も考えていて、ちょっとタイムリーな要素があったため、書き終えていれば別ですが、完成していないのでそういった設定の部分も捨てることにしました。
そこで、気分転換にこの設定を人脈単探偵シリーズの一遍にしてみたらどうだろうかと考えました。ただ残念なことに食べ物は絡んできません。人脈探偵シリーズは基本的に食べ物を中心として考えているので生物学的な要素が謎の中心となります。しかし量子力学の世界は生物学的なレベルでどうこうする話ではありません。やはりこれは無理があるかなあと思ったのですが、量子脳理論があることを思い出しました。脳のなかでは量子力学的な振る舞いをしているという理論です。これを中心に持っていけばいけそうです。
ゾンビですから舞台はハイチにします。基本設定はやはり死と生の重ね合わせですが、これが起こるのはあくまで一人だけです。極めて特殊な事情で重ね合わせのゾンビが起こったとすれば世界がどうなるとかそいうった面倒な部分は考えずに済みます。さらにトラブルメーカーの山下はカメラマンでカメラマンというのは基本的に観察者であり観測者です。おお、あつらえたかのように量子力学の観測問題と結びつけることができるではないですか。
ハイチと日本とでは時差が13時間ほどありますから、この時差も謎の解決にテンポよく組み合わせていけそうです。
問題はどうやって謎を解かせるかということですが、今回は謎解きではなく起こった現象をどうやって収束させるかという部分に焦点をあてることにします。つまりゾンビになってしまった人をどうやってもとに戻すあるいはゾンビではない状態に戻すかという部分です。原因はわからないままでも事態は収束させる。
ということであれよあれよと全体の構成ができあがって物語としてまとまりました。
終盤に田口くんが登場して山下を彼の実家に誘いますが、これは本来ならば三作目として考えていた話のことです。構想としてはある程度できているのですが、もう一捻りほしいなあと思案していたところで急遽この話のほうを先に書くことになったため、せっかくシリーズ物を書いているのだから次作への予告めいたものを盛り込んでみたいと思って追加したものです。
はたして次作を書くことができるかどうか。



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